今月のいちおし!5月

無能と失敗の社会学

著者 小谷 敏
発行 高文研 3,300円(税込)




福壽みどり

最近、本のタイトル、表紙のデザインまでも鮮明に「読んだ」ことを記憶しているのに、肝心の中味についてすっかり忘れてしまっていることが多く呆然としている。そんな思いで読み始めたからか、なんで、こんなにたくさんのことを覚えていられるのだろう…という感想がまずはとても大きい。

 印象的な言葉が多く、なんどもうなずきながら読み進んだ。文章そのままではないが、「合理性を極限まで追求すると非合理かつ非効率が生まれる。規則順守の規範を過剰に内面化しているため臨機応変な対応が求められると『訓練された無能力』に陥る。専門特化は、その専門以外のものに関心と注意が向かないよう仕向けてしまう。」ということが実際に起こったことと重ね合わせて説明される。自分がいま生きている社会を見回しながら、なんども「なるほど」と思った。そして、「『普通』の人からは隔離された特異な環境で育まれた人が、同胞に対する責任感を持つことができるか。日本人は、弱い人間が犯した小さな悪にはものすごく厳しいが、強い人間が犯した大きな悪には驚くほど無頓着なところがないか」などの指摘には、わが身を振り返った。そして、「空気」に惑わされず、ここはというところでは、きちんと自分の意見を伝えられる人間でありたいと、改めて強く願った。

 

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