今月のいちおし!7月

遥かなる雲

著者 徳田のぶ

福壽みどり

 徳田のぶさんといえば、鳥取市の同和教育を語るとき必ず名前のでる人である。全国大会での報告などは読んだことがあったのだが、あるとき、この徳田のぶさんが、鳥取の女性文芸誌に7回にわたって掲載した文章をまとめた本があることを知り、手に取った。

 満州事変から数年後、17歳のとき平壌で教師となった話から始まり、激しくなる太平洋戦争、敗戦、引き揚げ、終戦後の厳しい実態、米子市での生活、鳥取市での暮らし、そして同和教育の実践と、もりだくさんの内容だ。生まれる前のこととはいえ、そう遠くはない過去にしては、まったく実感のない、学校でもそんなに詳しく習うことのなかった第2次世界大戦前後の様子を、戦争の話ではなく、その時代に生きる一人の市民としての日々のありのままの暮らしが綴られることで返って理解がすすむ。その時々のさまざまな気持ちが伝わり、笑ったり、怒ったり、イライラしたり、周囲の人を思いやったり、時代関係なく、あれこれ想像もゆたかになる。とはいえ、今の視点でみると、「えっ」と感じることも多々あるのだが、こういった思いのある人々の力強い実践で、世の中が変わってきたのだと思うし、どんな世の中でも日々の人々の営みがある。

 

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