関東大地震から5日後の1923年9月6日、香川県から薬の行商で福田村を訪れた男女15人が、同村と隣村の自警団に襲われた、「福田村事件」。
震災直後は「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が武器をもって襲ってくる」などの流言が飛び交っていたが、現場を見たり経験したりした人が誰もいないことは作品の中でも描写されている。これらのデマに踊らされた各地がそうであったように、またこの村でも自警団が組織されていた。
水茶屋で休憩していた一行のもとに、自警団がやってくる。「見かけない連中」と一行を怪しみ、「天皇陛下万歳」と謳えない者を「朝鮮人ではないか」と疑う。
「鮮人だ」「鮮人ではない」と押し問答を繰り返すなか、行商のリーダーが「鮮人だったら殺してもいいのか」といった場面は特に印象深い。その後リーダーは、夫が朝鮮人に襲われたのではないかと、デマや噂を信じてしまった女性によって襲われ、命を落とし、一行は子ども、女性構わず次々と襲われていく。
行商に対する描写が差別的なのではないか、事実とは異なるといった指摘も多いこの作品。しかしながら、日常の偏見や先入観が、意図的制度的な抹殺へとつながることを指摘した「憎悪のピラミッド」そのものを感じさせる。 |