今月のいちおし!9月

くもをさがす

著者  西加奈子
発行 河出書房新社 1540円




福壽みどり

西加奈子初のノンフィクション小説。たしかにちゃんと見ればわかったはずだ。でも、読み始めるまで気づかなかった。新しい小説と思い開いてみると、そこには、本人の実際の闘病記があった。

 2019年からカナダに語学留学していた著者。乳がんの発覚とコロナ禍が重なり、カナダでの治療を決意。「がん」という病名だけでかなりしんどいのに、それを母語が通じない国で、医療にかかわるシステムも、治療方針もまったくちがう環境の中で進めていかなくてはならないなんて、どれだけしんどかっただろう。どれほど心細かっただろう。でも、ある意味、日本では簡単に許せなかったであろういろいろなことを甘んじて受け入れることができたのかもしれない。豊富な人脈と経済的な余裕があったからこそ実現したことなのかもしれないが、それは置いておいて、学ぶことも多い。

 最終的に、自分の体のボスは自分であり、周囲から自分のことをどう見られたいかという理想はあるにしても、やはり自分がどうありたいかを優先すべきである。そんなあたりまえのことを、いちいち思いださせてくれる。とはいえ、そう言い切って、そうできるほど、人はそんなには強くないのだろうけれど。でも、「私はどうしたいの」「どうなりたいの」という問いを、時々は自分に投げかけながら、自分らしく決断し、自分らしく生きることを大切にしたい。

 なにより「人生」や「生死」と比べたらしょうもないことかもしれないことを、西加奈子も、私と同じように悩むんだと知ったのも収穫だったかもしれない。

 

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