今月のいちおし!9月号

正欲

                                  著者 朝井リョウ

                           発行 新潮社(1,700円+税)


                                             
田川朋博


 先日まで開催されていた、オリンピック・パラリンピック東京大会。その3つの基本コンセプトの1つに、「多様性と調和」がある。“人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩する”というものだ。

 「多様性を尊重しよう」ということはいろいろなところで言われているし、社会的にもそういう方向に進んでいるのではないかと思う。社会にはいろんな人がいて、いろんな違いを持っている人たちがそれぞれの違いを認め合い、ともに生きていく。それは素晴らしく、美しいことだと思う。

 ただ、本書を読んで、その「尊重しよう」という「多様性」とは何だろうと改めて考えさせられた。所詮、自分は、自分の中にある「多様性」を「多様性」と捉えているだけで、自分の想定の埒外にも「多様性」があるとは考えられていないし、そこと出会った時に、本当に「多様性を尊重します」と言えるのだろうか、例えばそれが社会に受け入れられていなかったり、人に害を及ぼすかもしれない考えや特性だったら…?現在言われている「多様性」は、多数派が許容できると判断した「多様性」というだけではないか…と。

 美しい物語としての側面だけではない「多様性」についてどう考えるのかを突き付けられたと思う。

機関紙「ライツ」見出しへ戻る