今月のいちおし!7月号

「海辺の金魚」

著者:小川沙良

                  ポプラ社(1,500円+税)

                  田中 富治

 物語の主人公は、児童養護施設「星の子の家」で暮らしている花。18歳を迎え、翌年の春には施設を出る決まりになっているが、将来への夢や希望を何一つ持てていなかった。これは、花が8歳のとき、母親が無差別殺人の罪で逮捕・拘留されたことに起因する。

 ある日、ぼろぼろのぬいぐるみを抱えて施設にやってきた女の子・晴海の姿に、花はかつての自分を重ね合わせていた。その関わりの中で、今までなかった感情が芽生えていく。

 物語の中では、花や晴海をはじめ、8人の子どもたちの日々の生活での悩みや戸惑い、はしゃぐ姿や少しずつ成長する姿など、施設という小さな世界での豊かな日常が温かく描かれている。また、施設の子の面倒を見てくれるタカ兄の、子どもたちを大切にしたい気持ちや言動には心温まるものがある。

 全体として柔らかな表現で心情と情景を繰り返しながら、時にはハッとするようなストーリーが展開され一気に読み進められたが、作品を通じて施設の子は「かわいそう」、「いい子でね」という呪縛のような言葉、外の世界を全く知らない水槽の中の「金魚」など、各所に出てくるキーワードについては、色々と考えさせられ思いを巡らした。皆さんはどう感じられるでしょうか、是非ご一読を。