センター職員今月のいちおし!(3月)

JR上野駅公園口

柳 美里 著

河出書房新社

1,400円+

福壽みどり

 近年、日本で活躍する女性作家の作品翻訳が熱い!!らしい。この本も、昨年全米図書賞を受賞した。この1年STAYHOMEがしっかり身について、例年以上にたくさんの本に触れた。今月で、東日本大震災から丸10年。2014年に出された本だけれど、今読むことに意味があったと感じる。大きなことはなにもできないけれど、忘れないこと、覚えていること、それは大事にしている。

 「居場所がない人に寄り添う物語が書きたい」という作者が、今回テーマにしたのはホームレス。上野公園は、オリンピック、パラリンピックを前にずいぶんと変化しているらしい。厚生労働省の2020年度調査によると、全国の路上で生活する人の数は3,992人。同調査の13年前の人数18,564人と比べると、8割ほど減少している。しかしいわゆる「ネットカフェ難民」をはじめとする、統計に現れない「見えないホームレス」の数を合わせると、もっともっとたくさんの人が、今も不安定な居所で過ごしていると思う。上野のホームレスの人のなかにはもともと出稼ぎや集団就職でやってきた東北出身の人も多いらしい。お父さんが出稼ぎで、日常ほとんど会ったことのない生活も、そもそも出稼ぎしないと回らない生活も、私にはなかなか想像自体がむずかしく、したがって感情移入もむずかしかったのだが、「運が悪い」のひとことで片付けられない日本の社会の問題がそこにはある。何を大切にして人生を生きるかも、何に幸せを感じるかも、一人ひとりちがって、だからこそどの生き方も、そうせざるを得なかった部分は大きいかもしれないが、すぐに「幸・不幸」とわけたりせず、「あり」だよねと思いたい。自分自身の価値観を変えることはなかなかむずかしいけれど、価値観が揺さぶられるそのたびに、そこには何があるのか、しっかり考えていきたい。