センター職員今月のいちおし!8月

 

21Lessons

 

ユヴァル・ノア・ハラリ 著

柴田裕之 訳

河出書房新書(2400円+税)

 

田川朋博

 

 私たちは、昔の人たちに比べて多くのことを知っている、と思っている。でも、本当にそうだろうか。太古の人たちは、ウサギの狩り方や自分の着る服をどうやって作るのかを知っていたが、少なくとも私は、いつも使うファスナーの仕組みを説明することはできない。私たちは多くのものを知っているつもりでも、実はほとんど何も知らないのではないか。

 これは、「知識の錯覚」と呼ばれ、本書では、必ずしも悪いことではないと説く。「知識の錯覚のおかげで、全て自らを理解しようなどという達成不可能な努力にかまけて人生を送らずに済む。」つまり、他者の知識を信頼するという方法は、進化の視点に立つと、私たちヒトが協力しながら暮らしていくのにきわめて有効だったということだ。

 これは、昔は道理にかなっていた。しかし、現代ではどうだろうか。テクノロジーが進化し、昔に比べて世界が広がった今、私が知らないところで、私の人生にかかわるような決定がなされるということがあるだろう。そして、それは、AIの登場によって、ますます加速していくだろう。

 本書は、「雇用」「宗教」「戦争」「無知」「教育」など、21のテーマについて考察されている。もちろん、この21のテーマはそれぞれに独立しているわけではなく、深く関わりあっている。なかなか外出できないコロナ禍の今、ファスナーの仕組みを知る必要はないかもしれないけれど、今何が起こっているのか、これから何が起ころうとしているのか、考える良い機会かもしれない。