今月のいちおし!!2017年8月

語り継ぐハンセン病-瀬戸内3園から

山陽新聞社編
1,800円+税




田川朋博

 “今さらなぜ、ハンセン病だろう―。本書を手にして、そう思う方がいるかもしれない。”
 冒頭の「はじめに」でそう問いかける。「らい予防法」廃止から21年、「らい予防法」違憲国賠訴訟判決から16年が経過し、“語りつくされ、終わった問題”と捉えられているのではないか。そんな危機感もあったという。
 ハンセン病問題の歴史を動かしたキーマンの方たちの多くが亡くなられた。当センターの講演や機関誌への寄稿などでお世話になった金泰九さんも、昨年90歳で亡くなられた。入所者の平均年齢も2015年で83.9歳となっている。“歴史を伝えるのは今しかない”、まさにその通りだと思う。
 本書は、ハンセン病の隔離の歴史、そして、差別と闘ってきた人々の歴史を当事者たちの証言で振り返っている。それらの証言の中からも、いまなお、ハンセン病についての差別や偏見は根強く残っていることがわかる。ハンセン病問題は終わっていない。
 第7部では、「未来へつなぐ」として、歴史を継承しようとする動きが紹介されている。療養所の世界遺産登録をめざす取り組みを進める長島愛生園学芸員の田村朋久さんは“ハンセン病療養所には人権侵害という負の歴史とともに、それを乗り越えてきた人たちの希望の歴史が詰まっている。現代の私たちが学べることは限りなくたくさんある”と言われている。改めて、当事者の声にしっかりと耳を傾けたいと思う。
 田村朋久さんには、9月15日の人権とっとり講座にお越しいただきます。みなさん、ぜひご参加ください。

 

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