センター職員の今月のいちおし

知性は死なない 平成の鬱をこえて

著者 興那覇潤
発行 文藝春秋 1,500円+税




福壽みどり

 

この本を手に取ってみたのは、なにかの書評を読んで関心をもったからなのだが、どこに興味を惹かれたか正直覚えていない。でも、目次をめくり、「うつに関する10の誤解」という項目に心が動かされた。世の中には、多くの「鬱」に関する誤解があるように感じていたからだ。そこには、著者が当事者になったからこそ学んだこと、そしてわかったさまざまな現実があった。

しかし、この本をただ単に著者の「躁うつ病」体験記と思うなかれ。もともと公立大学の准教授として活躍していた著者が、平成時代の終わりに、この30年間を「知性」という観点で振り返る本でもある。また、病気になり、それまで本人を物心両面で支えてきた「能力」を失った著者が、肩書も能力も関係ない本来の「友だち」と出会い、つながるなかで、?同じ境遇の人たちに「回復」の道筋をみせることに意味があるはずだ“と思い書かれた本である。

 「おわりに」に記されていた『しあわせとは旅のしかたであって、行き先ではない』(ロイ・M・グッドマン)という言葉が、「あー、そうだといいなー。きっとそうだろう」と胸に響いた。

 

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