今月のいちおし!10月

「私のはなし 部落のはなし」の話

著者 満若勇咲
発行 中央公論新社 1980円(税込)




田川朋博

 屠場とそこで働く人々を写した映画「にくのひと」。各地で上映されて好評を得ていたが、劇場公開を断念されていた。それから十数年を経て公開されたのが、映画「私のはなし 部落のはなし」だ。本書には、一人の映画監督が、映像制作者としての立場から、どのように部落問題に関わり、映画として再構築したのか、という過程が書かれている。 「にくのひと」は見たことがあったのだけれど、「私のはなし 部落のはなし」は、まだ見ることができていないので、その過程や思いを知りたいと思っていた。

 「私のはなし 部落のはなし」は、「にくのひと」を終わらせるためにつくる、という想いから始まったそうだ。「にくのひと」をつくった時、いかに取材や事前交渉などが甘かったのかという反省があったという。一時は、「部落問題はもういい」という気持ちになりながらも、出演者との関係を丁寧に作りながら、試行錯誤しながら果敢に取り組んでいく姿は印象的だった。特に映像作品などで、部落問題はタブー視されがちだというが、避けるのではなく、映画のテーマともなっている「対話」を進めていくことこそが部落差別をなくする一歩ではないかと感じた。映画「私のはなし 部落のはなし」をぜひ見てみたいと改めて感じた。

 本書を執筆中、著者の生後3日の子どもが亡くなったそうだ。想像を絶する悲しみの中で、「男らしさ」「父親らしさ」を暗に求められ、ひどく傷ついたという。ひどい悲しみの中で、それでも何か作らなければならないと感じているという映画監督としての著者の今後にも期待したい。


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