今月のいちおし!12月

なんかいやな感じ

著者 武田砂鉄
発行 講談社 1,760円(税込)




衣笠尚貴

自分より少しだけ先輩の1982年生まれの著者が、自らの生きてきた時代、昭和後期から平成を振り返りながら、今日の社会に通底する「なんか嫌な感じ」の正体に迫っていく。

例えば「同調圧力」。部活動ごとの卒業アルバム用の写真撮影の日に、一人だけビジター用のユニフォームを着てきた子を見て、体育館には笑い声が響いていた。明らかにいじめられているのに泣いているその人に声をかけず、体育館での笑いに参加してしまう。声をかけると、その子に「気があるのか」とか「偽善者」とかいう巻き添えになることを恐れて、それができない。著者はこの経験から、日本は「同調圧力」というより「同調可能性詮索能力持続希望社会」で自発的に同調に向かうことを期待されている、と言う。自分がその出来事の主犯格にならないよう、俯瞰し、誤魔化し、「空気を読む」。

私たちは人として正しくあることや、自分のことは自分でできることを求められ続けている。自分の子どもたちもそうだろう。しかしそれに比べ、著者の言葉を借りれば「差別心を持たない人間になりなさい」とどれだけ言われてきただろうか。

「あなたはどうだ」と投げかけられるような描写が続いて少ししんどくもなるけれど、それでもやはり目を背けてはいられないと思わされる内容だった。

 

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