今月のいちおし!5月

 

著者 温 又柔

発行 中央公論新社 1,815

()()(プン)のさえずり



衣笠 尚貴

日本人の父と台湾人の母をもち、日本で生まれ育った主人公の(もも)()

物語は、桃嘉のストーリー、「雪穂」であり「秀雪」である桃嘉の母のストーリーが交差する。幼少期、母に「普通」の「日本人」としていてほしかった桃嘉の気持ち、自分が日本人でない、台湾人であるがゆえに、子どもを理解してあげられない日々に「日本人だったらよかった」と悩む母。お互いにぶつかりあいながら生きてきた。

そして、大学卒業後に恋人のプロポーズを受け結婚した現在の桃嘉は、1年たったいまでも自分の姓が変わったことに「慣れない」。回覧板のサインも思いがけず旧姓を使ってしまう。母の得意料理だった魯肉飯を作ったが、「こういうの日本人の口には合わないよ」「こういうのよりも普通の料理のほうが俺は好きなんだよね」と言う夫。

自分の気持ちが言えない、理解してもらえない。桃嘉がそんな気持ちになるのは、なぜなのか、そんな気持ちにさせているのは何なのか。登場人物それぞれの現実を通して見つめなおすことがたくさんあった。
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