今月のいちおし!11月号

「琥珀の夏」



著者 辻村深月

文藝春秋(1980円税込)

衣笠尚貴


弁護士として働く主人公は、夫も同業者、そして夫とのあいだにうまれた3歳の娘がいる。娘の保育園が決まらず悩み、子育てと仕事に忙殺される日々。そんな主人公のもとに舞い込んだ、ある依頼。

主人公が小学校4年生から6年生までの3年間、毎年1週間だけ行っていた学び舎「ミライの学校」。主人公のようにある期間だけしか行かない「麓の子」に対して、そこには親元を離れた子どもたちが自然の中で共同生活を送る「内部の子」がいた。

その跡地で女児の白骨化した死体がみつかる。その死体は自分たちの孫ではないかと案じる夫妻の代理人をつとめながら、主人公自身もその死体はかつて通った学び舎で出会った少女なのではないかという疑念を強めていく。

偏見、いじめ、待機児童、ジェンダーなど、「ミライの学校」を通じ、著者のいう「現実の中でも多々ある違和感」が書き綴られている。そして「子どもの未来のため」と語られることのなかに、本当に子どもが主体となりえていることがどれだけあるのだろうかと考えさせられる。決して、大人の隠された目的のために、子どもたちをないがしろにすることがあってはならないだろう。

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