今月のいちおし‼12月

手紙

著者 東野 圭吾
発行 文春文庫 619円(税込み)




坂根政代

  『ほとんどの人は、自分は差別などとは無縁だと考えている。世の中に存在する差別に対して怒りを覚え、嫌悪を感じることはあっても、自分が差別する側に立つことは断じてないと信じている。この小説は、そんな我々に問いかける。有名人の女優の息子が麻薬をやっていることで逮捕されたというニュースを見たとき、無意識のうちにその女優に同情し、とんだ息子を持ったものだ、彼女はこれから大変だろう。仕事もへらされてしまうかもしれない…そんなことを、あたりまえのように考える。しかしそう考えている自分を差別者だとは思っていないのだ。東野圭吾は、そんな我々を映す鏡を小説の中に埋め込んだ。』(解説より)
 私はこの解説を見て、好きな作家の本を買った。読みすすむうちに、胸が痛くなった。特に『差別はね、当然なんだよ。犯罪者やそれに近い人間を排除するというのはしごくまっとうな行為なんだ。我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる。すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね。』という直貴が働く会社の社長が、不当な配置転換に憤る直貴に話す部分。怒りと悲しさ、悔しさでいっぱいになった。
 両親を亡くし、兄弟2人で生きてきた兄・剛志と弟・直貴。直貴を大学に行かせるために、働き続けた剛志は、身体を壊し働くことができなくなった。そして、剛志は、強盗殺人事件を起こしてしまう。服役中の刑務所の中から月に一度、直貴に剛志からの手紙が届く。直貴に、被害者の家族に、謝りたくって…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。そして、直貴は兄との縁を切り他人として生きていくことを手紙で兄に伝え、自分の事を知らない土地で暮らし始める。そんなある日、一緒にバンドをやっていた友人が、刑務所への訪問の話を持ってくる。直貴は迷う。兄からの手紙に支えられてきた自分、そんな兄への思いを歌にして伝えるため、ようやく行くことを決心する。人の絆とはなにか、差別とは何か、差別がある中で生きるとはどういうことか、を考えさせられます。

 

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