今月のいちおし!5月号

望まない孤独



大空幸星 著

 扶桑社(913円税込)

 

田中富治

 最近、新聞やテレビなどで「孤独」や「孤独」が背景にある自殺者数の増加などの報道をよく見かけます。

一般的に、孤独には積極的孤独(Solitude)(自らの意思で一人でいること)と消極的孤独(Loneliness)(自らが望まない孤独)(誰かに頼りたくても頼れない、話したくても話せない状況やそこから生起される感情(孤独感))があると言われています。

 この本の著者である大空さんは、両親の離婚、一緒に暮らした父親との確執、そこから逃れて一緒に暮らし始めた母親からのネグレクトなど、過酷な生活を送る中で、自己肯定感は奪われ(心が壊れ)、死にたいという気持ちでリストカットなども経験されましたが、「本当はどうしようもなく苦しく誰かに助けてほしかった。弱い自分に見られまいとして必死に気丈に振舞っていた」と話されています。

また、今の日本社会には「頼ることは弱いこと」「誰かに相談することは負けである」といったスティグマがあり、自業自得という考え方に近い「懲罰的自己責任論」により「自己否定ループ」に陥っていくことが多いが、このスティグマを解消することが大切であること、すべての人がいつでも気軽に相談できる窓口を整えることの必要性を説かれています。

 この本を通じて、「孤独」は愛するものでも人を強くするものでもなく、社会的つながりが不足している状態であり、身体が求める誰かとつながりたいというサインであるということ、そして苦しい気持ちを募らせている人の心を、マイナスからゼロの状態に踏み出す過程において、そっと背中を支えながら「頼れる人」として伴走する「傾聴」ということの大切さを改めて考えさせられました。皆さんも是非ご一読を!

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