名前を公表し、顔を出してハンセン病回復者が生々しく語る。この証言は、長い間、人権侵害を受け続けてきた人たちの、ほんの一部に過ぎないと思う。まだまだ偏見や差別のあるなかで、語ることのできない人は数えきれないことだろう。触れられたくないことや、語りたくないことを敢えてさらしてまで法廷に立った証人。この命を賭けた闘いを、回復者の人間回復、人間解放の実現のためにも忘れてはならない。ハンセン病患者に対する隔離政策が、回復者とその家族、遺族に長い間もたらした過ちを知り、心に刻まなければならないことを思い知らされる。このまま黙ってはいられないという思いや、怒りが痛いほど伝わってくる。 証言者の一人、神美知宏さんの証言の中で、「隔離から解放されたかという問いに対して、否と答えざるをえない。予防法が廃止された現在、名実ともに決して解放されたとはいえない客観情勢があるから。法の壁は取り払われたが、もう一つの壁がある。それは偏見と差別の壁であり、今後も粘り強く教育、啓発活動を継続していただきたい。その二つの壁が取り除かれてはじめて、私たちは復権したと言えるのではないか、市民権を得ることができたと言えるのではないか。」とある。 まったくもってその通り。予防法廃止はハンセン病問題の解決ではなく、一つの壁が取り除かれただけ。「法の廃止」を「問題解決」と勘違いしないように認識しなければならない。当事者の証言によって、私たちが忘れてはならないこと、そして、これからの課題は何かもう一度考える機会を与えられたように思う。
|