今月のいちおし6月

「ハンセン病 重監房の記録」


宮坂道夫著

集英社新書660+




藤田澄代


 ハンセン病問題で一番衝撃を受けたのは、強制的にされた断種、堕胎だった。療養所では断種、堕胎だけではなく、強制労働、監禁なども強いられていた。また、草津・栗生楽生園には「重監房」という事実上の監獄が設けられ、裁判もないままに収監されていたという。まさに殺意さえ感じるほどのことが行われていた。これは、患者本人や胎児に対する一時の暴力ではなく、何十年経った今もなおその人を苦しめる暴力である。これらのこと、医学的なこと、これまでの差別の歴史のことなどがこの本に綴られている。

多くを語ろうとしない回復者の方たちは、心に深い傷を抱えている。被害者は、語ろうとしないのではなく、語れないのではないか。その体験を語ろうとしない理由のひとつは、本当にあったことだと信じてもらえないということがある。語ることで、またもう一つの悲劇が生まれてしまい、被害者は追い込まれ、傷をさらに深めるということになる。このようなケースはハンセン病問題だけに限らない。私たちが被害者と、そしてその問題とどう向き合うかによって、二次、三次被害を生むことにもなる。

この本を読んだとき、健康食品のブームが頭をよぎった。例えば、ダイエットに豆乳が良いといわれればスーパーの豆乳が爆発的に売れ、品切れとなる。しかし何時となくブームは過ぎ、また次の商品にと私たちは走る。あたりまえの事だが続けることによって効果は現れる。このことを差別問題と重ねて考えると、同じ現象があるように思う。どの問題が取り上げられようと、他の問題が忘れられてはならない。差別解消のためには、その問題と出合い、継続して向き合うことが大切。ハンセン病問題は終わっていない。差別問題にブームはない。あらためてしっかりと向き合っていきたいと思った。

 

機関紙「ライツ」見出しへ戻る