今月のいちおし!9月

熱と光を求めて(改訂版)
-「部落の子に教育を!」の願いを実現した
    出井富五郎と田中儀太郎のあしあと-

著者 足羽隆
発行 今井出版 (1500円+税)




椋田昇一

 1893(M.26)年7月8日、鳥取県内にある被差別部落(部落)から子ども8名がはじめて小学校に入学した。学校制度ができてから実に21年も経っていた。
 若き小学校長出井富五郎は、各地区に出向くなかで、部落の子どもだけが一人も入学していないことに気づいた。そして、校下の人びとの根強い差別意識が入学を阻んでいることがわかってきた。部落のなかにも、現実離れした遠い夢だとする反対や戸惑いがあった。地域の資産家の当主であった田中儀太郎は、日夜奔走する出井の姿を身近にみて、その考えと行動に強く心を動かし力をかした。ひまをみては、部落の子どもたちの入学に反対する人たちの家を回ってその間違いを説き、休みの日には学校に行けない子どもたちを集めて勉強会を続けた出井。田中は「部落の子でだめなら田中家の子にしてでも」と。
 まだ差別は当たり前だと考えられていた時代に、この厳しい差別に正面から立ち向かい「部落の子を学校に、すべての子に教育を!」と差別の不合理を打ち破るために真正面から取り組んだ若い青年二人であった。
 「部落解放は、単に一人の活動や一人の功績に帰してはなりません…、しかし、誰かが先頭に立たなければ、人々は差別の実態に気づくこともなければ、差別している自分に気づくこともありません」。そして、時代によって評価が変わることがあっても、取り組んだ事実は変わることはない。初版の「おわりに」にはこのように記されている。
 初版は2003年、今年発行された改訂版は、出井が邑美郡古市村、現在の鳥取市の出身だったという事実が新たにわかったことからははじまった。
 足羽さんは、この歩みと熱い思いを今に伝えることによって、「私たちが受けついでいくものは何か」を考え、「もう一度自分の姿を見つめなおし」「これからのあり方を考える上で、私たちの道しるべになれば」といっている。
 ひらたくてとても読みやすい文章で、子どものころに少しばかりふれた伝記物を読んでいる感覚で読み終えた。人の温もりと部落解放への希望を抱かせてくれる一冊といえる。

 

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