今月のいちおし!1月

「アフリカの瞳」

著者 帚木逢生
発行 講談社文庫 (800円+税〉




坂根政代

 この物語は、フィクションであるが、こわいくらい現実味を帯びている。物語は、アパルトヘイトが撤廃された後の南アフリカが舞台、主要なテーマはエイズであり、人種差別である。
 前作の「アフリカの蹄」では、心臓移植技術を習得するためにこの国にやってきた日本人医師の作田信が、先住民の診療所での診療を通して人種差別の厳しさに圧倒されながらも、黒人の抹殺をもくろみ天然痘を流行させる陰謀を打ち破るため奔走する。そのことで、「名誉白人」だった信が、黒人社会の中で自分を取り戻していくというストーリーであった。そして、この『瞳』では、その信と妻のパメラ、そして診療所のサミュエルと彼らを支援する地域の住人たち、研究者たちが、黒人をエイズ治療薬の人体実験として利用しようとする製薬会社の陰謀を打ち破るというストーリーである。
 「アパルトヘイトがなくなった先には、バラ色の未来がまっていると誰もが信じていた。実際は第二の地獄が待っていた―」「この国のHIV感染者は450万人、10人に1人。毎日1800人が新たに感染している。そのうち赤ん坊は200人。生まれながらにエイズ患者になる運命を持っている。HIV感染の妊婦に抗HIV薬を与えていればそうした惨事も防げるが、政府は、金がないという」「エイズ、貧困、そして債務―3重苦にあえいでいるアフリカ」、日本も関係ないとは言えない。
 この物語を通して、エイズ根治に向けての研究の重要性と安価な薬が誰にも届く社会の仕組み、人が生きることの支援のありようなどについて考えさせられた。健康やいのちや幸福そして未来に対してなんとなく胸の奥に潜む得体の知れない不安。何がそう思わせるのか。
 「ある問題を『ある』とみとめること、『知ることは力』であること、知らないで物事は変えられない」、仲間とともに女性たちの立ち上がりを支援するパメラの言葉が、強く私を惹きつける。

 

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