今月のいちおし!!4月

「なげださない」

著者 鎌田 實
発行 新潮社 (1600円+税)




坂根政代

 

 鎌田先生は、諏訪中央病院名誉院長です。地域医療に従事する一方で、イラクなどでの救援活動にも積極的に取り組んでおられ、命をテーマにテレビ、ラジオ、講演活動に東奔西走中。何がその行動を支えているのだろうか。

その生き方の根底に、人が人として生きられることへの熱い思いが、そして、人間に対するあたたかい眼差しがあります。命ある限り人が人として生きられるためには、他者との絆・つながりが必要だと、たくさんの患者さんやその人を取り巻く人々との出会いから学んできたように、お話から感じました。この思いは、反差別・人権の取り組みをしている多くの人々の生き方と重なっています。

この国のリーダーは国を、会社は信頼を簡単に投げ出すが、苦しくとも投げ出さない庶民がたくさんいる。もうちょっと投げ出さないことの大切さを書かなければと、この本が生まれました。

社会と個人の暮らしや生き方は関係しています。虚無感や閉塞感に覆われている今日、この本の『なげださない』生き方をしている10人の生き様は、私たちに生きる希望を与えてくれます。

「社会でだめな子と思われていても、ちょっと視点を変えるとすごく力があり、人を支えることができる。絶対だめなんてことはなくて、いつでも誰にでも、可能性はあるんじゃないかな」「壁にぶつかり、傷ついたときに投げ出してしまったら、全然駄目で、投げ出さなかったらいつか何かが変るんじゃないか」「そんなに頑張らなくてもいいんだけど、一回だけの人生なんだから丁寧に、自分らしく生きてほしい」と、鎌田先生のメッセージ。「人が生きるということ」、「人間とは」、そして「私は?」と、この本の一人ひとりの挫折や哀しみ、充実感や喜びが自分と重なり、また、その人々を支えている人々の存在に、その人を受けとめ共に生きることはどういうことかを考えさせられました。この本は、今の自分をみつめ、投げ出さない自分の生き方を見つける、処方になるのではないでしょうか。

 

機関紙「ライツ」見出しへ戻る