今月のいちおし!!5月

ホームレス中学生

著者 田村 裕
発行 (株)ワニブックス(1300円+税)




田中澄代

 

 裕は中学生。学校から帰ると、見覚えのある家具がアパートの階段に出されている。明らかに自分の使っていたもの。玄関まで行ってみると、“差し押さえ”と書かれたテープがクロス状に貼り付けられている。兄は大学生、姉は高校生だった。三人は父親の帰りを待つが、家に帰ってきた父からの言葉は「解散!!」の一言。この一言で彼らの野宿生活が始まった。

 裕は兄姉に迷惑になることを心配し、行き場もないのに精一杯の無理をして、公園での生活を始める。持っていたお金もなくなり、公園の草やダンボールを食べて空腹をしのいだこともあった。

 ある日友達と会い、家がなくなったことを話し、夕飯をご馳走になるのだが、やはり帰るところはいつもの公園。その時、友達の母親から、生活の目途がたつまでは、この家で生活していいと言われ、さらには、そのご近所さんや、同級生のお父さんに、アパートを見つけてもらえることになる。

 いろんな問題を抱えながらも、高校へと進学した裕は、一人の教師と出会う。その教師は、若干15歳の少年に、自分の悩みごとを全力で相談する。教師の一つ一つの言葉は、人間対人間の言葉という感じが溢れていて、裕の人生の価値観を根底から覆し、生きる希望を与えた。

 私たちは、仲間もなく、人とのつながりをもてていない人々、家庭にも居場所のない人たちのことに気づけずにいる社会の中で生きている。裕は、そういう意味では恵まれていたのかもしれない。人間はどんな状況におかれても、自分のことを好きだと言ってくれ、自分の存在価値を見出してくれる、そしてそれをはっきり言葉にして伝えてくれる人を求めていることを感じる。私も含めて。

 

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