出張のともに選んだ、内容的にも、重量的にも、軽すぎず、重すぎない1冊。
タイトルにある「降りていく生き方」とは、「人間らしさを損なう不必要なものを無理に身につけることをせず、淡々とありのままを生きていく、そして悩みを回避するのではなく、悩みを悩みとして受け入れる」生き方。「こころの3要素。虚しい、悲しい、寂しいという3つの気持ちは、楽しいとかうれしい以上に、こころの健康にとってとても大切。ともすると、私たちは、自分のなかからそれを消し去ろうとするけれど、それはとても大事な栄養素。メジャーな栄養素とちがって、微量栄養素だけど、それが欠けたらダメなんだ」。人間らしく生きるためには、悩みや苦労を回避したり、放りだしたりするのではなく、それを担う姿勢が大切なのだと説く、べてるの家の向谷地生良さん。
べてるの家で働く、統合失調症の清水里香さん。私が、べてるを訪問したとき、車の助手席に乗せてくれ、自分の苦労を、理路整然と語ってくれた。彼女は、「ここに来て、いまも幻聴は消えていない、病気は治っていないけれど、こんなに楽にあるとは思わなかった。しあわせは、自分の真下にあった」と語っている。
松本寛さんは、「分裂症(統合失調症)は、友だちの増える病気」と説明する。
べてるが大切にする人間に対する信頼の回復。「弱さをさらけだすと、落伍者のレッテルを貼られ、排除される。そんな不安にかられ、自分をそのままだすことができないために、ゆたかな人間関係を築くことができず、悩み、苦しみ、孤立する多くの人。人間らしく生きることができるゆたかな21世紀を期待したはずなのに、現実はますます逆の方向に向かいつつあるような気がしてならない」と、著者は言う。ますます、べてるの家の活動から、目が離せなくなった。