今月のいちおし!!7月

暗いところで待ち合わせ

著者 乙一
発行 幻冬社文庫 495円+税




田川朋博

 

視力をなくして、一人静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、二人を引き合わせた。

 ミチルは二人暮らしだった父親を亡くすと、「一人で生きていく」と決心し、家に引きこもってしまう。そんなとき、目の見えないミチルの家に、殺人事件の容疑者と疑われたアキヒロが逃げ込み、気づかれないように潜み始める。数日後、ミチルは誰かがいることを確信するが、「もし悪い人で、襲われるようなことがあったら、舌を噛み切って死ねばいい」と思い、気づかないふりを続ける。しかし、アキヒロは物音を立てないように静かにしているだけで、危害を加えるどころか、むしろミチルが大怪我をしそうになるところを助けてくれたりする。

 そんなとき、ミチルは唯一の友だちと喧嘩をしてしまう。一人で家に閉じこもってしまっているミチルを心配し、何かと外に連れ出していた友だちの「一人で外に出る練習をしよう」との誘いを断ってしまったためだった。仲直りをしようと白杖を持ち、友だちの家に行こうとするが、恐怖のためなかなか足を踏み出すことが出来ない。そんなとき、手を差し伸べたのは、アキヒロだった。

 目が不自由な人が外に出ようとする行為は、大変な恐怖を伴うのだろう。たとえば、それは猛スピードで歩道を走る自転車であったり、無造作に置かれた障害物であったり。ミチルの場合は、車のクラクションがトラウマとなっていた。それを乗り越えるのは、側で支えてくれる人であり、見守ってくれる人の存在だろう。誰かが支えてくれている、誰かが見てくれているという安心感が足を一歩踏み出させてくれる。一方、アキヒロもミチルとかかわることで人に信じてもらえたと感じ、本当のことを話す勇気をもらった。

 「一人で生きていけるというのはうそだった。」これは、障害を持つミチルの思いというだけでなく、人とのかかわりを避けていたアキヒロの思いでもあったのだろう。

 

 

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