今月のいちおし!8月

彼女が知らない隣人たち

著者 あさのあつこ
発行 KADOKAWA 1600円+税




田中澄代

主人公・咏子は、毒親の両親とは絶縁状態。地方都市の一戸建てで夫と息子、娘の4人で生活するパート主婦。

ある日、駅前の大型商業施設で爆発事件が起こった。また翌日には、近くの図書館で。そして外国人に対する誹謗中傷と攻撃が始まる。残酷で過剰な言葉や暴力が、見知らぬ「隣人」に向けられる。それは咏子のパート先のベトナム人実習生たちにも。

両親から尊重されることなく育ったためか、周りの空気を読むことが身につき、自己主張しないことで自分を守っていた。しかし、爆発事件をきっかけに、現実と向き合うことを身に着けていく。

難民受入れの対応が厳しいことは知っていても、その中の何か一つだけでも自分のこととして関わっていこうとする人たちと、SNSなどの誹謗中傷を鵜吞みにして攻撃する人。滞留外国人支援組織と息子の関係、想像もしなかった夫のヘイト書き込みサイトへののめり込みが明らかになる。それを取り巻く人の関わりがリアルに描かれている。

  咏子が友人から受けた“怒りは力になるけれど、憎しみは凶器にしかならない”とは、今まさに世の中で起こっている様々な事件を蘇らせる言葉であったが、人を知る大切さと人を理解する難しさ、そして人を知り理解する喜びを感じる言葉でもあった。

 

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