今月のいちおし!!9月

どこに立ち、何をするのか

坂根政代

 

『海に沈む太陽』(梁石日 ヤン・ソギル著)に、世界人権宣言のイラストレーターである画家・黒田征太郎の青春時代が描かれています。時代は、第2次世界大戦後。彼は一体どんな人生をおくってきたのでしょうか?

妾の子として差別されつづけ、そのことから解放されたくて、16歳で船乗りに。自由を得たと感じたのも束の間、今度は、結婚した相手の家族からの差別が。「金持ちがどんだけのもんじゃい」と思いながらも優雅な生活を味わい、「自分をなくす」ことで生きようとしました。しかし、心はよけい塞いでいくのです。自分のしたいことは?自分とは・・・なかなか答えが出ず自暴自棄になった時、「あなたは、自分自身を嫌い、何もしようとしない自分に腹を立てている」と妻に言われます。そしてようやく絵を描くことが、自分が自分でいられるということに気づき、絵で食べていこうとさまざまな会社をあたりました。でも、イラストを認めてもらえずまた学歴がないことで、またも低く扱われるのです。嫌気がさしアメリカへと。幼い時からあこがれてきた自由の国アメリカなら、自分の才能を認めてくれる、もっと才能を伸ばすこともできるという夢をもって。しかし、アメリカはそんな国ではありませんでした。アジア人であることで差別され、人間として扱われない。何とかようやく認められても、差別と競争主義のなか疑心暗鬼での生活を余儀なくされます。ここでも、「本当の自分」を求めてもがきはじめ、結局、日本に帰りイラストレーターで生きることを選択するのです。

差別社会で、自分を生きるということはどういうことかを考えさせられました。

もう一つ、ある講演会での講師の話。「私がなぜ同和問題に取組んでいるかというと、私を取り巻くさまざまな差別に気づかせてくれたのがこの問題。今なお、自分のふるさとをどうどうと名のることができないこの社会。この問題が未解決なのに、知らない顔をするのは、一人の人間として、人間の生き方として許されることではない」

求めるものは何か。自分はどこに立って、何をしようとしているのか、何がしたいのか。自分自身を問う出会いに感謝し、励まされました。

 

 

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