今月のいちおし!!11月

「シズコさん」


著者 佐藤洋子
発行 新潮社 (1,400円+税)




福寿みどり

 

4歳の頃、つなごうとした手を振りはらわれたことで、この本の主人公の「私」は、母を嫌いになる。そして、母をさわることさえできなくなる。私も、ずーっと、大人になるまで父のことがきらいだった。でも、父は私のことを、ずーっと好きだったと確信している。
 わがままで、自分勝手な父。一緒に遊んでくれない父。でも、大人になってわかった。戦時中、福寿家の4番目にして待望の長男として生まれた父に甘い顔をしないものはいなかった。だれだって、きっと、そんなふうに育てられたら、よほどの克己心がないかぎり、甘えて育つにちがいない。今、子どもを産んで、子どもに対する親の気持ちが私にも多少なりともわかるようになった。父のことが、どんどん愛おしくなった。
 「私」も、ずっと許せないでいた母を、ある日突然愛おしく思うようになる。堰を切ってあふれだした涙とともに、いやな思い出が新たな意味をもつようになった。
 完璧な人間も、完璧な親子もいない。私は、私の足りない部分を、周りの人にうめてもらいながら生きている。新聞に載っていたACの広告。そこには「しかられたのは、あなたが愛されている証。くじけそうなのは、あなたが進んでいる証。つらいのは、あなたがあきらめていない証。『生きている』という証を、感じてほしい」と書いてあった。あぁ、今、私はたしかに生きている。
 読み始めてなかなかすすまなかったこの本を、父が亡くなって一気に読んだ。早く大好きと気づけてよかった。世界中のおとうさん、おかあさん、子どもを産んでくれてありがとう。

 

機関紙「ライツ」見出しへ戻る