なんかうまくいかないなってことって誰にでもあると思う。仕事のことだったり、人間関係だったり。自分では「大丈夫、何とかなる」と思っていても、そんなことがどんどん重なって、いろんな小さなことが重なって、どんどん追い込まれていく。そして身動きが取れなくなり、誰にも相談できずに、知らないうちにどんどん孤独になっていく。
主人公の千鶴は、何もかもがうまくいかなくなり、自殺をするために旅に出る。たどり着いた民宿で自殺を試みるが、失敗してしまう。自殺をあきらめた彼女は、しばらくその民宿で寝泊りすることになった。
民宿の主人の田村さんは、千鶴が自殺しようとしていたことを知っても、特別に何かをするということもなく、日々の暮らしの中で普通に千鶴と接していった。千鶴も都会では体験できないことを体験したり、田村さんやいろいろな人と接することで、いろんな生きる喜びと出会うようになり、知らず知らず自分にまとわりついていたものを徐々に振りほどいていく。そして、この場所に居心地のよさも感じるが、同時に、自分の居場所がここではないことも感じ、自分の居場所を求めて、旅立っていく。
人の悩みなんて他人からしてみればたいしたことではないのかもしれない。でも、その人にとってはたいした問題で、生きるか死ぬかの問題になってしまうこともある。千鶴がそんな状態から抜け出せたのは、何気ない会話やふれあいがあったからだと思う。さらっと読めて、心が温かくなる、そんな本だった。