今月のいちおし!!2009年4月

悼む人

天童 荒太 著
文藝春秋刊 (1,619円+税)




福壽 みどり

「忘れたいこと」「忘れられないこと」「忘れたくないこと」、人生には、“忘れる”にまつわるいろいろな思い出がある。

 「忘れないこと」。私が確かに生きた証として、だれかの心に自分を刻んでもらうこと。いつも、いつも考えてもらわなくてもいい。でも、ふとした瞬間、「確かにあなたは存在していました」と感じてもらえる、しかも温かい記憶とともに。それは、どんなに幸せなことだろう。

 第140回直木賞受賞作の本書をもう読まれた方も結構多いのではないだろうか。私自身は、賞の受賞より、新聞に掲載された書評を見て、この本を読んでみたいと思った。

 「悼む人」は、さまざまな理由により亡くなった人を、わけ隔てなく新聞などの情報を頼りに日本全国悼んで周る旅にでている。その行動には、もちろん賛否両論あり、救われる遺族も、腹を立てる遺族も、気味悪がる周囲の人もいる。

 この本が伝えたかったことと、私が感じたことには隔たりがあるのかもしれない。私の読後感は、前向きに生きることの大切さだった。うまくいかないことがあると、落ち込んだり、だれかのせいにしたり、這い上がるのがむずかしい。まったく同じ言葉でも、人がちがったり、文脈がちがうと、称賛に感じたり、いやみと思ったり、正反対の意味をもつ。また、言葉を発した本人の伝えたかった意味と、私の捉える意味がちがうこともある。でも、どんな言葉も自分に与えられた、ひとつひとつ大切なメッセージと考えれば、すべての言葉が、自分のチカラになる。他者の評価を気にする私を否定する気はないが、それだけに振りまわさされる必要もない。

 物語は、私の描く、私の願う進行とは、微妙にずれた形で、けれど、まったくの肩すかしでもなく進んでいった。でも、予定調和に進まないのが人生だし、だからこそ楽しいのかもしれない。

 

 

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