今月のいちおし!!2009年5月

ルポ最底辺―不安定就労と野宿

著者 生田武志
発行 ちくま新書 (1,619円+税)




田川朋博

 

最近、「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」「ホームレス」などの言葉を特によく目にするようになった。100年に一度と言われる不況の中、テレビや新聞などで殊更取り上げられるようになったからだ。でも、どうだろう。今の自分にとってこれらの言葉に象徴される問題は身近な問題として在るのだろうか。

 そんな自分にとって、この本に書かれている内容は衝撃だった。失業した中高年、20代の若者、夫の暴力に脅かされる母子。いろいろな人たちがいろいろな理由で帰る場所を失い、路上生活に追い込まれている。

 野宿者の問題が社会問題化したのは、20世紀末。1986年から20年間、大阪・釜ヶ崎で主に日雇労働者として働きながら日雇労働と野宿の問題に関わり続けてきた著者が見たのは、この問題の変容し続ける姿だった。90年代前半までは、野宿者のほとんどすべては日雇労働者だったが、現在では野宿者の大多数は日雇い労働を経験していない人たちだという。若年層の野宿化が進行しており、彼(女)らが中年になる10年後、20年後に野宿の問題の本番が来ることは避けられそうにないと警告している。 

 なぜ、野宿しなければならない人は存在するのか。それは、私たちが暮らしている社会の構造が野宿を生み出しているから。人間の数に対して仕事の数が限られているため、どんなにがんばっても仕事からあぶれる人は出てくる。そして、その結果として野宿しなければならない状況が出てくる。それを「努力が足りない」と言って良いのだろうか。たまたま今自分は仕事に就いていて、近くに仕事がなく生活に困っている人の存在が見えていなかっただけ。見えていなかった現実を知り、またひとつ、考えていかなければならない問題を持つことができた。

 91日(火)には、この本の著者、生田武志さんに人権とっとり講座でお話していただきます。ぜひ、お楽しみに!

 

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