今月のいちおし!!2009年7月

丹波マンガン記念館の7300日

著者 李龍植(LEE Yog sik)
発行 解放出版社 (1800円+税)




椋田昇一

 

“閉館しようと思うたびに「丹波マンガン記念館はわしの墓だ」という初代館長の言葉が頭をよぎった”と2代目館長李龍植さんが言う。

 もう何度目になるであろうか、閉館を前に訪ねた。駐車場で「館長はいらっしゃいますか?」と尋ねると、受付の女性は「裏の方で重機を動かしています」と答えた。最初に、ちょっと前に新聞で見た「在日の恋人」を探した。でも真っ暗闇に、怖くて中に進めなかった。そのあと、これが最後かと感慨深く坑内を見て回った。そして、ちょうど資料館に戻ったとき、「館長いますよ」とあの女性が声をしてくれた。

閉館を目前にした週末、さぞ多くの人で賑わっているのだろう。明るく大きな笑い声が印象的で、物怖じしそうにない風で実に人懐っこい李さんが、ずいぶんと寂しそうにしているのだろう。李さんの深層は私などには図れないが、そんな私の勝手な思い込みは、実にみごとに裏切られた。閑散とした中で、しばし李さんと語ったあと、記念写真を撮った。シャッターを押してくれたのは、あの女性、「私の妻です」と李さんが紹介してくれた。

 最後であればこの機会を逃さまいと「在日の恋人」のことを尋ねてみた。「訳わからん芸術家や/見学して坑道からでてくると涙を流しとる人もおる/わしにはわからん世界や」と李さんらしく語りながら、見学用の特製ペンライトと、これは非常時用にと懐中電灯を渡してくれた。

 「やっぱり私にもわからん世界だった」と思いながら資料館に戻って本を買った。その一つが表題の本。もう一冊が『在日の恋人 高嶺格』(河出書房新社)。こちらは、最後の来館記念にととりあえず買ったのであったが、『「あなたのその、在日に対する嫌悪感は、なんやの?」とKは言った。僕はその質問に答えねばならなかった。』という書き出しに引き込まれて、あっという間に読みきった。

本代をお渡ししたのは、初代館長・李貞鎬の妻である李龍植さんのお母さんの手であった。閉館をむかえるこのオモニの思いはいかばかりであろうか。私などが代弁的に紹介などできようもない李さん家族の思いと足跡、そしてそこにある歴史の事実と真実に、みなさんも触れて欲しい。

 

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