彼女は自分の父から、家族や人とのつながりを根源からすべて否定するほどの大きな過ちを犯されていた。親を信頼したいという純粋な子どもの心を踏みにじり、女性の「性」をむちゃくちゃにされた。
皮膚が焼ける熱さと痛み。手首にカミソリの刃を押し当てて、一気に引くときの緊迫感。傷口から線を描いて流れ落ちる真っ赤な血の玉の美しさ。彼女にとって、身体の痛みは心の痛みよりもずっとましだった。底知れぬ不安、抑うつ、何度も襲ってくるフラッシュバック、生きているという実感の持てない現実が彼女を襲う。
何年かが経った時、一人の先生との出会いによって、生きることの意味を考える。少しずつ「過去」に自分の身を置き、封印してきた真実を語れるようになる。そして、父との対決がはじまっていく。それは、癒えていない傷口を抉るようなものだと思う。けれども、自分を取りもどすためには避けられないことなのだろう。
そして彼女は、最高のパートナーと出会い、自分がサバイバーであると自覚して生きていく。彼と共に過ごす時間の中で、時間をかけて感覚を豊かにし、美しいものを本当に美しいと思えるようになっていく。長い間歪められていた感覚が、長い年月を経てもどってくる。彼に愛されることで自分を愛することを知る。人との関係の中で生じた怒りや哀しみ、失望、絶望は、人との関係の中でしか取りもどせないことを思い知らされる。
紛れもない事実。それは、想像を絶するものだった。性暴力によって苦しみ、自分がサバイバーであることを、周囲に気づかれないようにと生きている人たちは、性的虐待が消えうせない限り、心が癒されることはないのだろう。