今月のいちおし!!2009年10月

その名にちなんで

著者 ジュンパ・ラヒリ
訳者 小川高義
発行 新潮社 (2,200円+税)




田川朋博

 この本を読んで、自分の名前がどうやって名づけられたのか考えてみた。そこには、親たちのいろんな願いや思いがこめられているはず。例えば、「朋博」という名前。「ともひろ」という呼びかたにも意味があるはずだし、「とも」は「友」でも良かったのに、「朋」にしたのはなぜか。聞いた事はないのだけれども、画数の問題なのか、意味の問題なのか…。

 この物語は、ベンガル人の父母の間に生まれ、アメリカで暮らすことが決まっているのに、「ゴーゴリ」という変わった名前を付けられた男の物語である。父親が若いころ列車事故にあって危うく死にかけた時に、たまたま読んでいた本がロシアのニコライ・ゴーゴリという人が書いた「外套」という本であり、それにちなんで「ゴーゴリ」という名前が付けられた。主人公は、自身がインド系であることを恥じるとともに、インド系であるのにロシア人風の名前を名乗っていることを恥じていた。周囲からも奇異の目で見られ、疎外感を感じていた。そして、大学院に進んだ彼は、「ゴーゴリ」という名前を捨てて、改名してしまう。しかし、名前を捨てた解放感を味わうとともに、近しい人とのつながりを断ち切ったような哀しみを感じる。あるとき突然の転機が訪れ、そして…。

 どんな風変わりな名前でも、そこにはいろんな願いや思いがこめられており、また、意味や思いが重なっていくものだと思う。一生ついてまわる名前。そこにこめられた思いを大切にしていきたい。

 

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