今月のいちおし!2010年5月

ダイアログ イン ザ ダーク


福壽 みどり

 そこは、本当に真っ暗だった。本当の暗闇があることをはじめて知った。
 「目以外の何かで、ものをみようとしたことがありますか?」と、そのチラシは問いかけていた。1989年、ドイツ生まれの「暗闇の中の対話」体験。完全に光を遮断した空間のなかを、暗闇のエキスパートである視覚障害者にサポートしてもらいながら、視覚以外のさまざまな感覚を使っていろいろなものを感じながら歩く。
 点訳事業に取り組んで1年。「目が見えないってどういうことだろう」と、ずっと考えてきた。この体験ですべてがわかったわけではもちろんないけど、百聞は一験(見)にしかず。畳の匂い、花の香りが、いつもとちがって際立って感じられた。人の声が、こんなに頼りになるあたたかいものだと、久しぶりに思い出した。ふだん当たり前としている感覚に、改めて気づく一方、「自分がどこにいるかわからない。かろうじて空間のせまさ、広さを感じるだけ。人の声が何もしないと、広い世界にたった一人でいるような孤独感。」今まで感じることのなかった感覚を覚えた。目が見えないことの一端を知った。
 「ダイアログ イン ザ ダーク」暗闇体験は、私にとって、まるで目をあけたまま、起きたまま、夢を見ているような感覚だった。

※ダイアログ イン ザ ダークについて、詳しくは、
http://www.dialoginthedark.com/をご覧くださいませ。

 

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