昨年発行されてベストセラーになった村上春樹の「1Q84」は、この物語を土台に執筆されたものだという。この本自体戦後間もなく書かれたものだったが、そんなこともあって新訳版が書店に並んでおり、手に取った。
物語の舞台は、3つの1党独裁の超大国によって分割統治された世界で、絶えず戦争が繰り広げられている。市民の思想、言語などあらゆる市民生活は統制され、その行動は絶えず「テレスクリーン」という双方向テレビジョンによって監視の目にさらされている。党の主張であれば、2+2が5ともなり得る、そんな世界だ。
戦後まもなく書かれた本であり、当時のソ連を想起させる全体主義社会を批判した内容のように思えるが、むしろ現代、あるいはこれからの未来を予見しているようだった。「テレスクリーン」は実現可能なほど科学は発展しているし、実際、街頭には防犯カメラが増えている。マスコミによる報道は画一的なりがちで、多くの人々は疑うこともなくそれを受け入れている。違うことを言おうものなら、総攻撃を受けてしまう。
大げさかもしれないが、現代の社会においても、2+2は4と答えることのできないような状況になりつつあるのではないか。「こんなのあり得ない」ではない、今の時代にこそと思える小説だった。