今月のいちおし!! 2011年10月

ゴールデンスランバー

著者 伊坂幸太郎
発行 新潮文庫(857円+税)




田川朋博

 人権とっとり講座最終日に、講演の中で好井裕明さんがこんなお話をされた。大阪の池田小学校殺傷事件の報道において、その事件の背景や動機などがわかっていない段階で報道各社が共通して伝えたことは、ある一人の目撃者からの「金髪やった」という言葉だった。この「金髪」というキーワードにより、情報を伝える側としてのメディアは受け取る側の視聴者にこの事件のイメージを形づくらせ、犯人像を想像させてしまう。

 この物語の主人公は、国家規模の陰謀に巻き込まれ、現職の総理大臣の暗殺という濡れ衣を着せられてしまう。警察が主人公を実行犯と断定すると、メディアは彼の過去をほじくり返し、報道キャンペーンを実施した。様々な情報が伝えられる中、本来の主人公の姿とは違った、この事件にふさわしい犯人像がつくられていく。そして、多くの人々を敵にまわして、孤独な必死の闘争劇が展開される。

 「大した根拠もないのに、人はイメージを持つ。イメージで世の中は動く」。自首を説得する警察が主人公に言った言葉だが、その言葉の意味の怖さを感じるとともに、そのイメージに左右されずに主人公の逃走を助けた人々がいたことに救いを感じた。

 

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