今でも思い出すことがある。10年程前、福祉の仕事に携わったばかりの頃、障害のある人に言った“何気ない一言”。周りの人から指摘されるまで、特に意識することもなく、ごく自然に使っていた言葉。それ以来、使ってはいけない“言葉”だと考えて、“その言葉”には敏感になった。
「発言を撤回し、謝罪します…、不適切な発言の責任をとって…」、言葉の使い方を誤ると、他者を傷つけ、場合によっては社会的非難を浴びる事態を招くことがある。本を読んで気づいたこと、それは差別語や不快語の使用を避けたり、言葉を言いかえればそれで済むものか、ということ。そして、それだけでは差別問題への理解を遠ざけてしまうのではないか、ということ。なぜその言葉が差別表現で、人を傷つけるのかということをもっと考えることが大切ではないだろうか。
部落解放同盟の幹部として、長年にわたってマスコミや企業などの差別表現問題に取り組んできた著者だが、本書は単なる「禁句・言い換え集」とはなっていない。部落差別だけでなく、障害者、性、人種、民族、宗教などに分けて語られる差別の「実践編」では、過去の差別表現事例がふんだんに解説されており、それぞれの言葉の背景がよくわかる。
また、多くの人がネット上で、自らの思いや感想、意見をブログやツイッターなどを通して発信している現代、新たなネット上での隠語などの言葉も問題になっています。普段何気なく見たり、使っているかもしれない“言葉”について考えさせられる一冊です。