今月のいちおし!! 2011年12月

困っているひと

著者 大野更紗
発行 ポプラ社(1,400円+税)




福壽みどり

 

 新聞の書評で見た。読みたいと思った。でも、どうしても手が伸びなかった。引き返せないような、圧倒的ななにかが自分に迫ってくるように思えた。しばらくして、新聞の「本の紹介」で取り上げられていた。やっぱり読んでみようと思った。

 彼女の病名は「筋膜炎脂肪織炎症候群」。日本ではほとんど前例がない。1365日、毎日インフルエンザの症状が続いているような感覚らしい。「難病患者となって、心身、居住、生活、経済的問題、家族、私の存在にかかわるすべてが、困難そのものに変わった。」でも、「絶望は、しない」と決めた。

 闘病生活の中で、身内、友だちなど周囲の人の「何とか力になりたい」と願い行われる支援は、結果双方に負担をもたらす持続不可能な「支援」と気づく。途上国、難民キャンプで「ひとを助ける」ということがいかに複雑でむずかしいかを卒論にした著者が、その卒論で“最も周辺化され、最も援助を必要としている人々にとっての最良の支援は、政治的な構造を変革することなしには実現しえない場合が多いのではないだろうか”とまとめた著者が、あらためて、ひとが、最終的に頼れるものは「社会」の公的な制度ときづく。そして、その社会制度は「モンスター」ともいえる複雑怪奇さで、制度の谷はまるで「マリアナ海溝」なみに深い。さあ、どうなる、大野さん。

 そして、彼女は恋をする。ステロイド服用を決めたとき、恋愛感情を永遠に封印すると誓ったのに。このくだりは、あまりにも切ない。100万回の「よくなってます」より、1回の「よくやってます」に励まされ、大野さんの難病闘病生活は、都内で今も継続中。

 

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