今月のいちおし!!2015年4月

献身
「遺伝病FAP患者と志多田正子たちのたたかい」

著者 大久保真紀
発行 高文研 3,000円+税




福壽みどり

 この本を読むまで、病気の名前すら知らなかった。本の裏の説明には、FAPとは、「主に肝臓でつくられる特殊なタンパク質が神経や臓器にたまり、やせおとろえ、やがて死を迎える遺伝性の神経難病。根治療法はなく、唯一の対症療法とされるのが、肝臓移植である。」と書いてある。二分の一の確率で親から子に遺伝する。1952年の発見当時は、手足の先が温度や痛みを感じなくなる症状などから、しばしばハンセン病と診断されていた。その地域でハンセン病という診断を受け療養所に入った人々の記録を調査した医師により、彼らがFAP患者であったことがわかった。
 足先のしびれ、下痢と便秘を交互に繰り返す初期症状から、やがて汗をかかない、涙もでない、唾液もでなくなる。30歳前後で発症し、10年から15年で死に至ることが多い。
 患者たちの苦悩は多く、そして多岐にわたる。遺伝性であることと関係する悩みも多い。また、自分の肝臓の悪いところを切るなら悩まないが、健康な人のおなかを切って、移植してもらうのは躊躇するという思いもある。発症するかもしれない子どもたちのために患者ではない妻(夫)の肝臓は取っておいてもらいたいとの思いもある。
 社会からの差別との闘い、そして症状に苦しむ患者・家族にずっと寄り添ってきた志多田だからこそ、命の選別、優生思想、障害者差別とはわかっていても、病気を治せないなら「根絶」をと願わずにいられない壮絶な現実。「知らない」というのはこわいことだ。今まさにこの病気で悩み、苦しんでいる人がいるのに。まだ、なにができるかわからない。でも、「知った」ことの重みを受け止めたい。

 

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