今月のいちおし!5月号

〈寝た子〉なんているの? 見えづらい部落差別と私の日常

著者 上川多実
発行 里山社 2,640円(税込)




衣笠尚貴

部落差別をなくすためには、そもそも部落差別とは何なのかを説明していかなければならない。しかし、人生のなかで部落差別のことをまったく知らないまま生きていたり、また少し齧っていても、特に意識することなく生活している相手にその説明をすることは、正直かなり難しい。大きな労力と少しだけ打たれ強い精神力も必要かもしれない。

著者は幼いときから部落差別と闘わなければいけないと自覚してきた。部落解放運動の活動家を両親に持ち、両親の価値観を内面化して過ごしてきた著者と、部落問題に無知である周囲の人々との隔たりは言うまでもなく大きい。ときに「差別など過去のこと」と教師から怒られるなど、著者の感じた世間の価値観の理不尽さが強調されている。

どうアプローチすれば、友達に「見えづらい部落差別」を伝えることができるだろうか。自分の子どもに部落にルーツがあることの意味を伝えることができるだろうか。目の前の、足元の課題を解決しながら歩み続ける著者の新たなスタンスが共感できることが多くあった。

 

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