今月のいちおし!5月

「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」

著者 齋藤幸平
発行 KADOKAWA 1,650円




田川朋博

理論の重要性を信じ、理論と実践とは対立しないと考えるからこそ、私の方がもっと実践から学ばなければいけない。つまり、「学者は現場を知らない」という印象を持たれてしまうのであれば、私はもっと現場から学ぶ必要がある。そういうわけで、2年間かけて、日本各地の現場に行って、勉強をすることにした。

 

本書の著者は、著書に『人新世の「資本論」』がある東大准教授。普段は部屋に閉じこもって思想研究をする日々。そこから抜け出して、「現場」をめぐった記録が本書だ。

「現場」とは多岐にわたる。差別の「現場」、格差の「現場」、気候変動の「現場」…。タイトルにあるもののほかにも、京大で「タテカン」を作ったり、昆虫食を食べてみたり、男性メイクを体験したり、石巻で持続可能な復興を考えたり…。「レッツ!脱プラ生活」では、個人の努力だけでプラスチックに頼らない生活は可能か、について実生活で検証している。膨大なエネルギーと時間をかけて頑張った結果、ごみの量は7割くらい減ったという。そこでは、「個人のできることには格差があるからこそ、個人の意識ではなく、社会の側を変えていく必要がある」という結論に至っていた。

 結局は、やってみないとわからないし、行ってみないと、話してみないと、本当のところはわからないのではないのだろうか。頭だけで考えて結論を出してしまいがちな自分自身をあらためて自戒させられた。

 

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