今月のいちおし!3月

ダーウィンの呪い

著者 千葉 聡
発行 講談社現代新書 1,320円(税込)




田川朋博

1859年、チャールズ・ダーウィンは「種の起源」で「進化論」を提唱した。この「進化論」は、自然科学の分野だけでなく、政治や経済など、社会に多大な影響を及ぼした。そして、「生物の進化は何らかの目標に向かう進化ではなく、方向性のない盲目的な変化である」とする「進化論」は、人の手で動植物の品種改良ができるのなら、人間の品種改良もできるはず、という着想につながり、ナショナリズムと帝国主義が思惑として含まれることで優生学、優生思想が形成されていった。

 アドルフ・ヒトラーの専属医師でもあったカール・ブラントは、第2次世界大戦中、強制収容所に収容されていた数千人の人々を強制的に不妊化するなど、数多の残虐行為を行った。1948年、敗戦国に対する戦争裁判で死刑宣告を受けたブラントは絞首台の前でこう語っている。「ありとあらゆる人体実験を主導してきた国が、その実験方法を真似ただけの他国を非難し、罰せるのか。」

優生政策を進めていたのは、ナチス・ドイツだけではない、米国、英国、オリンピック創設の目的にも優生思想はあった。日本では1948年に母体保護と不良な子孫の出生を防止する目的で強制不妊手術を含む優生保護法が制定されたが、前身は1940年に制定された国民優生法で、ナチスの遺伝性疾患子孫予防法をモデルにした法律であったと言われている。

優生思想は過去に消え去ったのではない、2016年の相模原障害者施設殺傷事件などでもわかるように、現代にも脈々と息づいている。技術革新が進み、遺伝子改変技術の人間への応用、人間が持つ能力の限界を超えた超人を作り出すなどへの議論もある。

本書ではダーウィンの進化論がどのように理解をされ、どのように社会に影響を与えていったのかを辿っていく。今再び優生思想を揺り起こすのか、私たちが問われている中、歴史を遡って由来を辿ることで、見えてくるものがあるのではないかと感じた。

 

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