草
日本軍「慰安婦」のリビング・ヒストリー
キム・ジェンドリ・グムスク 作
都築寿美枝・李 昤京 訳
(3,000円+税)
田中 澄代
今から10数年前、初めてナヌムの家へ行った。それから何度か訪れ、李玉善(イ・オクソン)さんの証言を聞くことができた。
その時、一人のハルモニがとても険しい顔をして言った。自分は証言なんて絶対にしないんだと…。その場では頷くことしかできなかったが、同じ被害者でも語りたくない過去をあえて証言することについて、一人ひとり考え方が違うということを目の当たりにして帰った。
そして、今回この本に出合った。ハルモニたちと話したことや、彼女たちの笑顔が懐かしく思い出される。
これは長い間人権侵害を受け続けてきたハルモニの、ほんの一部に過ぎないと思うが、被害者が経験した事実と、抱えてきた思いを知ることは、最も大切なことだと思う。
「私はトミ子じゃない。私の名前は李玉善だ!」
彼女たちは偽名を使わされ、名前も尊厳も奪われた。ハンセン病患者に対する隔離政策も同じ。そして回復者とその家族、遺族を長い間苦しめた。性被害の問題もそうだが、個人的に慰安婦問題とハンセン病問題を重ねて考えることが多い。法の壁は取り払われても、いまだ偏見と差別の壁があることを忘れてはならない。
「証言をすると、体調を崩してしまうこともあるのです。」とナヌムで聞いたことを思い出しながら、一人のハルモニの生涯を知る。この証言をした彼女に思いを馳せながら。