灼熱の夏、彼女はなぜ幼な子を置き去りにしたのか」。帯にはそんな言葉が躍る。
2010年夏、大阪のマンションに子ども2人が置き去りにされ死亡し、シングルマザーの母親が逮捕される事件があった。灼熱の部屋の中でクーラーもつけず、飢えと渇きの果てに子ども2人が死亡するという事件に多くの人が胸を痛めると同時に、逮捕された母親は猛烈なバッシングに晒された。「鬼母」などと騒がれ、風俗店で働いていたことや、ホストに通っていたことなどもことさら強調されていたように記憶している。
本書はその事件をモチーフにした作品である。若いシングルマザーの蓮音、その母親の琴音、そして置き去りにされる桃太、萌音という2人の「小さき者たち」、それぞれの視点から物語は進んでいく。家族という絆の脆さ、そして絶望が余すところなく描かれ、言葉と肉体による暴力が知らず知らずのうちに子どもたちの肉体、そして精神を侵食していく。「小さき者たち」の視点には、母親を思う子どもたちの心情が切々と描かれ、何度も胸を打たれる。もっとも罪深いのは誰か、「つみびと」とは誰なのか。
来年で事件からちょうど10年がたつ。児童虐待は後を絶たない。