今月のいちおし!!2017年10月

14歳、僕らの疾走

著者 ヴォルフガング・ヘルンドルフ
訳  木本 栄
発行 小峰書店 1,600円+税




田中 澄代

 彼らにとって、世界は360度開けていたのだろう。かなり悲劇的なようにも思えるが、世間に対して構えるわけもなく、自分の悲劇に溺れることもない少年たち。すべてに肯定的で、とても素敵な旅。スピード感のある滑らかな語りにのって、マイクとチックというサイコーの相棒同士の旅に便乗してみたくなるようだった。
 マイクとチックにとってこれ以上ないくらい幸せであろう体験が、しだいに彼らと同じくらい楽しく、切なく、心地よくなっていった。14歳の少年からみる世界が、とても鮮やかで眩しく感じる。
 世の中には、個人の力ではどうしようもない「仕方のないこと」ってたくさんある。私たちはそれを諦めたり、受け容れたりしているのだけれど、「自分が信じられる何か」さえなくさなければ生きていけることに納得。久々の爽快感。
 映画「50年度のボクたちは」を観る日が待ち遠しい。

 

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