今月のいちおし!!2017年5月

狩りの時代

著者 津島佑子
発行 文藝春秋 1,600円+税




福壽みどり

 この本を読んでみようと思ったのは、新聞で書評を読み、なにか惹かれるものがあったからなのだが、本のあとがきの冒頭に「差別の話になったわ」と作者が娘に伝えたことが載っている。なるほど、「差別の話」という前提で読んだわけではなかったが、全編を通して、差別的なことを考えさせられる。しかし「それは差別です」と書いているのではなく、「そういうことってあるかも…」とちりばめられ、心を重くする類のものだ。
 深く印象に残っている箇所。「障害のある子に恵まれたから、いっぱい教えられることがあって、むしろ感謝しているって、母親の一人がインタビューに答えていたんです。でも、わたしはそんなのおかしいと思いました。教えられることがなかったらだめなんですかって言いたかった。私は母親じゃないから、こうちゃんを育てる苦労を知りません。だからえらそうなことは言えない。母はとても苦労したのかもしれない。でも、その意味を考えたくないんです。こうちゃんのいない母はどこにもいない。母のいないこうちゃんも、どこにもいない。こうちゃんのいないわたしも、どこにもいない。ほかに意味なんてありません。」
 作者にとって最後の作品となったこの小説は、病床の中、最後の推敲まではできていない状態だった。娘が「この作品をいま、差別のなかで生きる人々に届けなくてはいけない」と決め、刊行された。本人が最後まで推敲していたら、どんなふうに変わったのだろうと、一生答えのない問が頭に浮かぶ。

 

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