今月のいちおし!!2014年2月

だから荒野

著者 桐野夏生
発行 毎日新聞社 1,600円+税




田中美貴枝

 夫との関係、子どもとの関係、この家族の中での自分の存在は。
 46歳の誕生日に「おめでとう」と言ってくれる家族は誰もいない。
 ネットゲームに夢中な次男、家のことは一切しない夫。全員バラバラでそれぞれが身勝手に常に自分のことしか考えていない家族。
 夜のそこに潜む自由。遠くへ、遠くへ、誰も行ったことのない遠くへ行ってみたい。そこに何があるのか見届けたいと最悪の誕生日に家を出た。
 途中騙されて車を盗まれたりしながら長崎へ、原爆を経験した「山岡」の家での生活。彼は人の苦しみや悲しみがどれほどのものなのかは、その人にしかわからない。小さいとか、重いとか、比べられるものではないという。
 自分が何なのか、自分探しというけれど結局何も分からない。自分が何のかは見つからないし決めてしまうこともない。今有るのが自分なのだから。逃げていれば何処までも同じ荒野のまま、どこにいても自分自身が変わらない限りどこも荒野。自分の居場所、使命は自分で探すしかない。
 最後は、(期待したけれど)結局そうなるんだという結末でした。

 

機関紙「ライツ」見出しへ戻