センター職員の今月のいちおし

涙の理由

人はなぜ涙を流すのか

重松清、茂木健一郎 対談
宝島社 650円+税


田中 澄代

 

人は なぜ 涙を 流すのだろう? 小説家と 脳科学者の 涙の理由を 探す 旅が始まる 世界はさまざまな涙で満ちている

 「はじめに」で、この対談全体を支配する問題意識の核心が込められている。そして、人が涙を流すとはどういう仕組みなのか、「泣く」と「泣ける」の違いは何なのか、涙に貴賤はあるのか、その謎を解き明かそうとしている。

 人が涙を流すには、たとえ同じ作品を読んだ場合でも、さまざまな感情があり、理由がある。しかし、「泣ける」ということの背後にあるのは、一つの共通した感情の共有化であり、空気を読むことかもしれない。

 対談の流れは、どんどん深いところまで進んでゆく。文学だけでなく、絵画や音楽といった別のジャンルの感動と涙まで考慮されている。

 “この本でたどり着いた、一つの結論がある。それは、「小説を読んだり、映画を観たりして感動して泣くという「借り物の涙」に対して、自分の人生のジグゾーパズルがかちっとはまって流す「自分だけの涙」があるということだった。”…と。

 私は、人生の中で、命のパズルがかちっとはまった瞬間に流れる自分だけのかけがえのない涙に気づけただろうか。気づけるだろうか。自分の涙と、うまく付き合っていこう。

 

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