センター職員の今月のいちおし

「MARCH」

原作:ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン
画:ネイト・パウエル  訳:押野素子
岩波書店(1巻:1900円+税、2巻:2400円+税、3巻:2700円+税)




田川朋博

 

 原作者の一人のジョン・ルイスは、現職のアメリカの下院議員。公民権運動において重要な役割を果たした伝説的な人物として記憶されており、2011年には、オバマ大統領から自由勲章を授与されている。物語は、2009120日のバラク・オバマの大統領就任式に出席したジョン・ルイスが、これまでの道のりを振り返っていくという形で進んでいく。

 1950年代から1960年代の差別と暴力が渦巻くアメリカ。アラバマ州の片田舎で少年時代を過ごし、人生を変えたキング牧師との出会い、ナッシュビルでの学生運動、食堂の白人専用カウンターでの座り込み運動などを通して、差別に対抗する非暴力の手法を学び、ルイスは公民権運動に身を投じていく。殴られ続け、投獄し続けられながらも続けられた運動は、アメリカ社会で大きなうねりとなり、19658月、投票時の人種差別を禁じた投票権法成立へと続いていく…。

 この投票権法の成立で、ルイスは「私の知る公民権運動は終わったのだ」と語っているが、人種差別との闘いが終わったわけではない。1968年には「I have a dream」と語ったキング牧師が暗殺され、最近でも、丸腰の黒人少年が白人警官に射殺されるという事件が起こっている。もちろんアメリカだけでなく、世界中で人種差別は存在している。そんな中だからこそ、公民権運動を戦い抜き、今も人種差別に抗し続けるジョン・ルイスの「行くべき場所にはたどり着くものなんだ」という言葉が強く響いた。

 

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