センター職員の今月のいちおし

「日本型ヘイトスピーチとは何か」

社会を破壊するレイシズムの登場

著者 梁 英聖
発行 影書房 3,000円+税




衣笠尚貴

 

NGO「反レイシズム情報センター(ARIC)」でも活動する著者が、在日コリアンをとりまく歴史を紐解き、欧米との比較も交えながら、今の課題を図表を含めて問題提起する。

著者は、「レイシズムは、何かのきっかけがありさえすれば、暴力へとレベルアップする」ことを、「レイシズム行為のピラミッド」を用いて解説している。「出自(血・ルーツ)にまつわる集団に対する不平等」、これがレイシズムだが、この不平等を正当化しようとするときに生まれる、イデオロギーや思想、世界観が「偏見」であることを、マスコミなどが伝えるニュースなどを例に、分かりやすく解説している。

日本は反レイシズム規範のない稀有な先進国である。そのことが結果として、ヘイトスピーチが頻発するような状況を生み出してしまった。また、ヘイトデモなどをおこなう団体の悪質性にばかり目を向けてしまいがちだが、それを支えている国による差別的な煽動や、反歴史否定規範の欠如と歴史否定の煽動も、この状況に力を貸していることを意識しないわけにはいかないことを、歴史背景をふまえて解説している。

 今後反レイシズムの規範をどのように根付かせていくかという課題があるわけだが、本書は今後の研究活動や社会運動に大きなヒントを与えるのではないだろうか。

 

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