今月のいちおし!!2016年5月

「釜ヶ崎から」

著者 生田武志
発行 ちくま文庫 900円+税




田川朋博

 著者である生田武志さんには、2009年度の人権とっとり講座に講師としてお越しいただいた。野宿の問題を、図を使ってわかりやすく解説していただいたことを覚えている。2007年には、「ルポ最底辺」という本を出されているが、本書は、それに2008年以降の野宿問題の状況などを書き加えたものだ。
 2012年1月、橋下大阪市長は釜ヶ崎のある西成区を「直轄地」とする案を公表した。大阪都構想を問う2015年5月の住民投票の直前には、「大阪都になれば、ここは新中央区。大阪の顔になります。」と西成区民に呼びかけたが、その後の住民投票で大阪都構想は否決となった。しかし、その後の大阪府知事市長ダブル選挙の結果により、「大阪都構想」は住民投票に向けて再始動することになり、「西成特区構想」の行方も不透明となっている。
 
「釜ヶ崎は日本社会が抱える労働、差別、貧困、医療、福祉の矛盾が集中する『日本の縮図』として、困窮した人たちを支援する『社会資源』が最も集中する街になった。……釜ヶ崎は『高級化された』地域になるべきだろうか。むしろ、生活困窮などさまざまな『生きづらさ』を抱える人々が助け合いながら生活できる街として存在し続けることの方が、はるかに社会的な意義があるのではないだろうか。……釜ヶ崎の活性化は、労働者や野宿者の排除ではなく、ここに集まるさまざまな人々の相互理解と交流へと向かうことができるはずである。橋下市長の『西成を変えることが大阪を変える。大阪から日本を変える』という言葉は、むしろこのお意味で実現すべきなのだ」。
 現在、日本全国で野宿している人数は1万人程度で、高齢化と若年化が進んでおり、さらに、精神疾患・知的障害を持つ野宿者の割合が劇的に増えているという。現場の姿が大きく変わり続ける中で、「貧困との塾の日本」を見続けてきた生田さん。「野宿問題は日本社会や世界の様々な問題と可能性を映し出す『鏡』である」という言葉に、私たちに問われていることは多いと感じた。
 

 

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